オーガニックミートと言うべき”ジビエ”を語っていただきたい。 by 椿説屋(ちんぜいや)
①野生鳥獣の食肉利活用は、時代に求められた地方創生の事業
全国での鹿や猪をはじめとする野生鳥獣の過繁殖による農業、林業その他の被害(鉄道への進入、衝突、自家用車との衝突)は甚大なもので、農作物被害額だけでも全国で164億円(平成29年度)にものぼっています。数字に表れない「営農意欲の減退」など、その影響は被害額以上に深刻です。
そこで、近年「適正頭数の維持」という観点から駆除に取組みが行なわれてきております。ジビエ(=野生鳥獣対策の一環としての食肉利活用)は、中山間地域を鳥獣被害から守る事業でもあります。
また、里山での捕獲〜搬入〜解体処理〜販売という野生鳥獣食肉利用のビジネスの流れは、衰退著しい中山間地域に、それぞれ捕獲者(ハンター)、食肉処理事業者、食肉販売事業者という雇用を生み出す事業でもあり、まさに地方創生の事業と言えます。
②野生鳥獣肉の食肉利活用は、生命の尊さに触れることができる事業
「駆除」の名目で捕獲され生命を奪われる鹿や猪は、食肉として食されない限り、埋設(穴を掘って埋める)、焼却といった処分をされ、有り体に言えば、捨てられることになります。かつては、「食べる」ために狩られていた動物の生命が、人間の生活を守るためとはいえ、殺されるだけになってしまうことが多い現状です。
野生鳥獣肉の食用事業は、「獲った生命を有り難くいただく」という動物と人間の生命のやり取りに根ざした事業です。
その観点から、最近では、「食育」として学校給食に取り入れられたりすることも増えてきました。
③鹿肉・猪肉は、健康的なオーガニックミート
鹿、猪といった野生鳥獣は、懸命に、自由に生きる獣です。野山を駆け巡る身体能力、力強さ、機敏さは、牧畜される牛、豚などとは大きく異なります。
どうやってこの柵を飛び越えて農作物を荒らしたか?(鹿)
こんなにも果樹の根っこを掘り返す力強さがあるのか(猪)
どうして収穫間際の一番美味しい食べごろに荒らしにくるのか。。。
どうやってこの罠の危険性を回避したのか。。。
などなど、その生命力には驚かされるばかりです。
自由に生きていますから、管理されていません。不自然に肉付きを良くするような食餌でもなく、病気にならないような抗生物質も投与されていません。管理されていない反面、獣は獣として、自らを健やかに保つよう、その時季に応じて好きなものを食しています(タケノコ、青葉、果樹、木の実など)。自然は優しくも厳しくあるため、病気になった獣は死にます。ただし、捕獲されるまで生ききった鹿や猪は、生命力に溢れています。
このような天然のジビエなので、鹿、猪ともに、高タンパクで低カロリーな食肉になっています。
④実は鹿肉・猪肉はもともと日本人の食文化にあった
「明治に入るまで、日本人は四つ足の獣肉を食べていなかった」という間違ったイメージがありますが、それは違います。
確かに、仏教の影響(仏教で肉食は禁忌とされる)で四つ足の獣肉を表立っては食べないという時代の雰囲気があったことも確かですが、そもそも縄文時代から日本人の山のタンパク源は獣肉でした。
食べることを忌避されているように思われる江戸時代にも、病弱な者が「薬喰い」(薬を食べる)と称して、獣肉を食することがありました。獣肉は、精を付けるということが理解されていたからです。信州の「鹿食免(かじきめん)」、諏訪大社で頒布される鹿をたべることへの免罪符ですが、これは狩猟により食べられることが獣を救う道であるというものであり、文化として根強く残ってきた証でもあります。
⑤滋養強壮効果が期待されるジビエ
漢方の世界に目をやりますと、鹿茸(鹿の生えたての袋角)、鹿角は、滋養強壮の薬効が有る代表的な漢方薬原料です。
猟師は猟犬に肉付きの鹿骨を餌として与えることが一般的ですが、そのような猟犬は一様に毛ヅヤが良いです。イヌ/ネコの餌としてもジビエが良いということに着目して、近年、高級ペットフード、イヌ/ネコの成人病予防として、ジビエ原料のペットフードがよく見られるようになってきました。
老衰のような感じで足腰が立たなくなってきていたイヌが、鹿肉メインの餌に切り替えてから歩けるようになった、と大分県内の飼い主から感謝されたこともあります。
【鹿肉】(ホンシュウジカ / キュウシュウジカ)
鹿肉は、一般的な食肉である牛肉、豚肉に比較して、高タンパク低脂肪、低カロリーな食肉である、とよく言われております。カロリーは低カロリー食肉の代表格である鶏のササミ肉と同程度(※鹿肉のカロリー=100gあたり120kcal)であり、高い栄養価(※100gあたり22.6gのたんぱく質)があり、脂質が低く(※同2.5g)、とてもヘルシーな食材です。
その上で、鉄分(同3.9mg)、亜鉛(同2.7mg)といったミネラルも豊富に含まれています。
さらに、鹿肉含有の栄養成分として注目したいのが、「トリプトファン(必須アミノ酸)」と「ナイアシン(ビタミンB3)」という成分です。
トリプトファンは、脳内神経伝達物質でもあるセロトニンを生み出すための原材料でもあり、必須アミノ酸の一種です。セロトニンは別名『幸せホルモン』と言われており、セロトニンが不足すると「疲労を感じやすくなる」「不眠」「ストレスが溜まりやすくなる」などの不調を生じてしまいます。セロトニンの原材料となるトリプトファンは人間の体内では生成することが出来ませんので、しっかり食べて摂取することが必要です。
鹿肉には、そのような貴重なトリプトファンが100gあたり290mgも含まれています。
ナイアシンは、血行を良くしたり、肌荒れを改善したりする効果、またメラニン生成を抑えシミ・そばかすを防ぐ美白効果などを有することから近年「若返りのビタミン」と言われているものです。
鹿肉には、美容に欠かせないこの成分が100gあたり10mg(ナイアシン当量)と多く含まれています。
心と身体の美しさを保つため、是非、鹿肉をたくさん召し上がって下さい!
【猪肉】
豚の先祖は猪ですから、猪肉と豚肉と似ているのは確かですが、栄養成分から見ると、鉄分はなんと4倍(100gあたり2.gmg)、ビタミンB12が3倍(100gあたり1.7mg)となっています。神経や血液細胞を健康に保ち、全細胞の遺伝物質であるDNAの生成を助ける栄養素であるビタミンB12を猪肉でしっかり摂って下さい!
また、猪肉で気になる「脂」ですが、猪肉の脂身の性質としては、飽和脂肪酸が少なくなっていることを強調したいところです(※脂質1gあたり、飽和脂肪酸294mg、不飽和脂肪酸602mg)。飽和脂肪酸とは対照的に、体に良い影響をあたえる脂肪酸が不飽和脂肪酸ですが、その中の多価不飽和脂肪酸は「悪玉コレステロールを減少させて、ドロドロ血液をサラサラにする」のに役立ちます。この多価不飽和脂肪酸が、猪肉には豚肉や牛肉に比べて、多く含まれています(※脂質1gあたり、多価不飽和脂肪酸129mg。牛脂の3〜5倍程度のレベル。)
猪肉は、一般的な食肉である牛肉、豚肉に比較して、高タンパク低脂肪、低カロリーな食肉ですから、健康のためにも、がっちり猪を召し上がって下さい!